20230926

夢、死人に梔子

 襖をあけるといまや人気女優のKさんが、行燈で明かりをとっているだけの薄暗い座敷へ敷いてある二人分の布団の上に座っていた。彼女の夫が今日死んだ。日付が回って昨日だったかもしれない。自殺だった。Kさんは行燈の橙と闇の黒がその上でさめぎあっている浴衣を着て俯いている。
その首がゆっくりゆっくりもたげられて、こちらに向く。
 私は急な訃報に夜中ながらいそいで駆けつけた友人の家に線香をあげにきた。ワイシャツが汗ばんでいるのを感じている。友人の母に通された暗い部屋に未亡人となったばかりのKさんがいたというわけである。布団の奥に置かれた棺には白い花が供えられている。私の手にも同じ花があった。

 Kさんがじっと私の顔を見つめてから、並んだ掛け布団を少しめくりつ言う。
「今日はたくさんお喋りできるよ」
 霊前だぞと私は思うのだけど、そんなことを弁えないKさんではない。彼女が夫を愛していなかったとか、私に秘めたる想いを持っていたとかはおそらく関係なく、悲しみとその悲しみの責任の所在を自らの中に見出すことを誰よりも自らに強いられているこのたびの不条理を一瞬なり忘れるためかもしくは結果的に苦しみを打開することになるきっかけづくりか明日になればもっと自分を苦しめることになる気の迷いか、如何。
 だけど私は予感している。このあと完全にやっちゃうんだろうな〜と。真意がどうであれ人の痛切な想いは無碍にできない。

くくっと笑って浴衣を脱いでいくKさんがちいさく口ずさんでいる。
「かえるのうたが きこえてくるよ ケロケロケロケロ クワックワックワッ」

なんども繰り返される。私は黙っている。彼女の夫・私の友人はもはや輪唱が叶わない。
彼女は俯いてひとりでうたっている……。
その顔が、また私を見た………。

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