20230912

前半はかなしく後半は怖い話

 ふりかえってみればなんだか楽しかったけど同時にそれを上回るくらい悲しかった出来事があり、そんなことってあるんだと自分を対象化して平静になろうとしているそのこと自体がなお悲しい。

いちど柱立て石積む橋のこちらに私がいる
あなたを見てる

いくつも立てた柱と石積む橋の向こうに私はいて
あなたを見てる

水を打つ音がする
またあらわれる
水を打つ音がする
またひとしずく


「結局さ、彼って私のこと、友達としてしか見てないんだよね……」という言葉がきっと今日もどこかで誰かにつぶやかれていて、言われた相手としても「せつないね……」としか返せない。私は直接その言葉を聞いたことはないんだけども、あざとくて何が悪いの?を毎週ちゃんと観ている私としては、「そういうのが毎日のように誰かがつぶやいているんだろう」と結論せざるをえない。私が言えるのは、私は自分がこれまでとこれから先において書くなにがしかの台本で、キャラクターにその言葉を吐かせることはすまい、ということ。共感のみを喚起させるだけの陳腐なセリフだからではない。「結局さ、彼って私のこと、友達としてしか見てないんだよね……」という言葉の哀切さに、私自身がちょっと耐えられないということさ。何か創作をやるというのは、そこに出てくる登場人物たち全員を一人ひとりの人間として扱う責任をはらむ。いいことよおこれ、どんな形であれ。私はいつも彼らにそう思う。
もしも「結局さ、彼って私のこと、友達としてしか見てないんだよね……」というセリフを、必要に迫られ他にうつてなく書くことのあれば、絶対に結果逆転をうむためのふりとして使おう。

「結局さ、彼って私のこと、友達としてしか見てないんだよね……」という言葉を例にとる会話が今日、仕事の中でなんとなくあり、私はへらへらしていた。すべてのことは枯れ、風化していく。一億年後には現在林立している建物のすべてがない。テニスコーツの「光輪」が聴きたくなってiPodを探すも見つからない。iPhoneのサブスクで音楽を楽しんでいる自分に強い反省を促す出来事だった。iPodが見つからない悲しみよりも、iPodが見つからない状態にあることに全然気づいてなかったことが。すべてのことは枯れ、風化していく。我々はもとより我々の気持ちとか気分とはいつ・どこにあったか?それは本当にあったか?その検証と証明のためにテクノロジーたる映画をやってるというのがやってる全員の根底にある。あなたはそこにたしかにいた?どんな気分で?

 作業がひとくぎりついたと思ってこんこんと永く眠ったら、夢の中で夢を見るというのが久しぶりに起きた。母親と幼い少女が団地を臨む十八時の道路上にいる。私はその少女を知っている。近所の子だ。私は三人くらいでしゃべったことも何度もある。そんな子が、私の一度も見たことない彼女の母親(であろう女性)と連れ立って立っている。急にあたりが暗くなっていて、電灯が二人を照らしているからそこにいるのがわかる。私は直感する。彼女たちはこの世のものではない。怪異である。しかし、母親はともかく私はあの少女を知っている。だから怪異じゃない可能性がある。だけども、もしかしたら会ってない期間に亡くなって、怪異として現れたのでは?それより、もっと怖いのは、もし、私が会っていた時から既に……ずっと……。
 現在の私が夢の中の私自身にあきれることなのだけど、私は上記の「怪異の可能性高い」母娘の姿を見て、おばけかもしんねぇ!と発想し、ならば手元にあるビデオカメラだかiPhoneだかで、撮影しよう!おばけを撮影したらすごい映画になる、と思い至ったのだ。マジで自分が一番怖い。早く立ち去ればいいのに。
 そこで私がとった行動というのは、その娘を呼ぶというのであった。
Aちゃーん!おーい!」私は手を振った。
娘がやおらこちらに向かって走り出した。
その走り方は、駆け寄るとかではなくて、いきなりのトップスピード、あきらかに何かの強い意志を伴う、それは、もしかすれば殺意。
私はあわてて逃げ出す。近づいてきたことで解像度の上がった彼女の顔は青く、目鼻の位置に空洞があった。

──という夢を見た私は「なんて恐ろしいのだ、これはホラー話のネタになる」と思い、友人と喫茶店にてそれを話す。夢の話だからところどころあやふやだったりするが、ともかく聞いてもらう。知人は黙っている。こうふん気味に話し終えた私は尋ねる。
「どうだった?さっきから淳さん黙ってるけど──」
ここまで言って私は気づくのだが、目の前の友人というのは「淳さん」ではなく、そして私に淳さんという友人はいない。ずっと黙っているその人には、あるべき場所に口がなかった。

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