結婚式会場にいた。
正確には結婚式会場の教会の前の庭。蔦のからまる石造の教会の前、見上げれば緑のアーチのすきまから白く日が射している。晴れていたんだ。5月の晴れ。
そこにちゃんとしたスーツを着て、僕はボサッと立っていた。周りには沢山の人がいるけど、知ってる人はひとりもいない。なんだこれと思いつつ、雰囲気で結婚式だと分かった。こぼれんばかりに笑顔の群れの中にひとり困惑して、それでも始まる雰囲気に拍手を合わせていた。
ふと知っている顔があった。昔の恋人だった。白いドレスを着て、友達なのだろう女の子と笑っていた。その顔にもやっぱり、祝福の微笑みが張り付いていた。
なんでこんなとこにいんの。心臓がめちゃくちゃ汗をかいている気がする。なんでこんなとこにいんの。うわぁやっぱ可愛いな。ドレス似合うな。なんでこんなとこにいんの。
気づかれたらやばいけど、気づかれたいな。気づいてくんないかな。こっち見ろ、こっち見ろ。またしゃべりたいな。
そんな風に焦っていると元恋人は教会の中に入っていった。僕は慌てて追いかける。かきわける人混みがジャマだ。お前ら、お前ら、どいてくれ。これはたぶん夢だけど、それでもあの子に会わせてくれ。
重厚な教会のドアに近づいた時、中から花嫁と花婿が出てきた。われんばかりの拍手に包まれる庭。知ったことか。誰だお前ら。ふたりの顔はよく見えない。誰だお前らって知ったことか。
ウェディングドレスの向こうにあの子が見えた。さっきの友達と並んで、花嫁のドレスの裾を持っていた。
なんでだよ!!!!
気が緩んだその時、僕の横にいた女性が話しかけてきた。
「キレイね、お嫁さん」
そうですねと曖昧にうなずきつつも気はそぞろだ。
「あんなちゃん、運命の人だと思ったらしいわよ」
あんなちゃん?大学の同期の?と思って花嫁見たらそうだった。同級生だった。
マジかおめでとぉ!混乱の中で一瞬祝福しつつも、悪いけど今それどころじゃないんだよね。あっ、行っちゃう。
庭の真ん中で花嫁(同級生)がブーケトスをしようとしている。皆がブーケトスをキャッチしようと移動する。笑顔の群れの中、もみくちゃに突き動かされてるけど僕はブーケトスなんぞどうでもいいんだ。
もう仕方ないから名前を呼ぼうとした。
喉に力を込めて、「いつぶりだろう」とよぎるあの子の名前を呼ぼうとした。
だけど声は出なかった。なんでっ。
花嫁(同級生)が大きくブーケを放る。
高く飛んだブーケは雲ひとつない空の青に吸い込まれるように遠ざかっていく。それはすごく綺麗だった。
「あぁ。」
思わず漏らした感嘆で、声がまた出るようになっていることに気づいた。
あの子はどこにいるだろう。花嫁(同級生)の後ろを見たけどもういなかった。ブーケトスを受け取るために人の群れの中に入ったんだ。
空からブーケが落ちてくる。無数に伸ばされた手のひとつがそれをつかんだ。
歓声。
そこで目が覚めた。朝から落ち込むね。
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