本年度文化荘文化大賞が以下の通り決定いたしました。
◯大賞
ダメージヶ原ゆみ(from「時に想像しあった人たち」)
滝沢朋恵「AMBIGRAM」
◯大賞最終候補
パトリシア・ハイスミス「ヒロイン」
ダメージヶ原ゆみ(from「時に想像しあった人たち」)
鈴木亜佐美(from『仕舞』)
平山水絵(from「光ってみえるもの、あれは」)
滝沢朋恵『AMBIGRAM』
木村美月の企画「午後の死」
排気口「光だと気づいた順に触れる指たち」
◯選考ノミネート作品
大江健三郎「読む人間」
アニー・エルノー「シンプルな情熱」
J.M.クッツェー「恥辱」
トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の彗星」
太宰治「十二月八日」
池澤夏樹「スティル・ライフ」
広瀬正「マイナス・ゼロ」
カーソン・マッカラーズ「渡り者」
パトリシア・ハイスミス「ヒロイン」
乗代雄介「それは誠」
クジラックス「歌い手のバラッド」
エンリコ・フェルミ「Notes on Thermodynamics and Statistics」
木村美月の企画「午後の死」
排気口「光だと気づいた順に触れる指たち」
モルグモルマルモ「Life on Earth?」
住所不定無職「キスキス」
滝沢朋恵『AMBIGRAM』
detroit7「サンデーボウイ」
平福百穂「猟」
檜山沙耶熱愛報道時のインターネットにおける反応
JR東日本 えんがわ押し寿司
えんツコ堂製パン 西荻ハリー
しみずや クッキー
鈴木亜佐美(『仕舞』)
平山水絵(「光ってみえるもの、あれは」)
ダメージヶ原ゆみ(「時に想像しあった人たち」)
ミクロフードマン カウデル
Standberg Biden RAS 6 BanG Dream! RAISE SUILEN 朝日六花モデル
オドレイ・トトゥのとても個人的なセルフ・ポートレート
PUMA カバーオール LOVEジャン
タカノフーズ おかめ納豆 山わさび納豆
籐椅子
M-1グランプリ2023
Marshall MonitorⅡ A.N.C
村井優の「怒」
UNIQLO×MARNI コラボアイテム各種
選考者:ワンダフルデイズモーニング、静谷静一、志水あみ、あさくらなおき
選考日:2024年3月31日
選考会場:ドトール西荻窪南口店
○選考者コメント:ワンダフルデイズモーニング
私の今年度の文化大賞の選考テーマは、かなり元も子もないが“魅力的”言い換えれば“理由を言葉にできない衝動”の力を最も持つ候補を推す、ということだった。つまり、私に限ったことで言えば、「これこれこういうところが素晴らしい」と説明のできなさの強い候補が大賞になるべきと考えたのである。斯様な前提のもと、私個人は「ダメージヶ原ゆみ」と「午後の死」の二つの候補を推すつもりでいた。「ダメージヶ原ゆみ」は、大別すれば同じ選出基準で最終候補に残った「鈴木亜佐美」「平山水絵」と票の分かれるところになるのではないかと予想したが、むしろ票の分かれというよりは三候補の魅力は甲乙のつけられない同率ではないかということになった。三候補同時大賞との向きもあったが、私は三候補の中で、自分が事前に携えた“理由を言葉にできない衝動”の最も大きな「ダメージヶ原ゆみ」を強く推した。「鈴木亜佐美」「平山水絵」の欠点を挙げて「ダメージヶ原ゆみ」の優位を語ることはしたくない。三候補が文字通り三つ巴の均衡を表したことへの不敬に感じるからである。三候補そのものの魅力を並べるのではなく、三候補それぞれをそれぞれのタイミングで一番最初に鑑賞したとき、そしてその後の自分自身の反応の客観的観察を私は根拠に据えることにした。鑑みたところ、「ダメージヶ原ゆみ」のみが、四枚のファンアート(厳密には未発表を含む六枚)を描かせていたのであった。そして最も“負けた”という爽やかな敗北感と捻れた思慕を呼び起こしたのだ。ファンアートの制作とその数が客観的な結果である。ひとつの“すてきなもの”が他者に波及し、何かしらの具体的な行動を起こさせる。この波紋は文化的な事物・事象の魅力の大きさをはかる物差しとして適当であると私は思う。また「午後の死」もこれに関連する。鑑賞時に最も私を混乱に陥れ、且つその混乱へネガティブな印象を抱かせなかったのは全候補の中では「午後の死」だけである。「ダメージヶ原ゆみ」と同じ敗北感および思慕を私は覚えた。好みの分かれることがあっても、私個人は「午後の死」は「ダメージヶ原ゆみ」と同量の魅力を訴えたい。当文化大賞が合議によって選考されるという原則ゆえに私個人の独断が私個人の想いのみで押し通ることはできなかったが、しかしながら私の中では、大賞である「ダメージヶ原ゆみ」に比肩し拮抗したのは「鈴木亜佐美」「平山水絵」よりもむしろ「午後の死」だったことを残しておく。ちなみに、同時大賞の「AMBIGRAM」に私はいささかの異論もない。しかし「ダメージヶ原ゆみ」「午後の死」を携えていた私は「AMBIGRAM」を語るに言葉が足らないように感じるので個人のコメントとしては割愛する。それでも、確かに、「AMBIGRAM」には言いようのない魅力があった。まさに“理由を言葉にできない魅力”である。私の大賞選考基準に矛盾しない。
○選考者コメント:志水あみ
今回の選考では、最終候補が過去最多となった。最終候補である七つは大きく三つのグループに分けられるのではないかと私は思った。A〈キャラクターの魅力〉を打ち出す「ヒロイン」/ダメージヶ原ゆみ/鈴木亜佐美/平山水絵。B〈総体的な作品の魅力〉を持つ「午後の死」/「光だと気づいた順に触れる指たち」。そしてCそのどちらでもない理由で選出された『AMBIGRAM』である。A群とB群が対照的であるというのを私は面白く感じる。A群の三つはどれも作品の要素にすぎず、作品それ自体を対象としていない(「ヒロイン」はキャラクターではなく作品そのものではないかと思われるかもしれないが、「ヒロイン」という作品の魅力は主人公・ルシールの魅力がそのおおよそ全部であると私は思う)。「ヒロイン」はイコールでルシールのことでもあり、それゆえに選考対象をあえてルシールに限定することは意味をなさない。しかし、「ヒロイン」が大賞まで推しきられなかったのも同様の理由からになる。あくまで「ヒロイン」という作品全体が対象でありながらルシールというキャラクターがその“良さ”のほとんどを担っていることで、「ヒロイン」自体を大賞に推すには至らないと選考では結論した。A群の話をもう少しすると、選考会の流れはこのAグループから大賞を選ぶべきではないかという趣が強くなったのだが、ダメージヶ原ゆみ/鈴木亜佐美/平山水絵の三候補は私の中ではほとんど拮抗しており、文字通り甲乙つけ難いため、弁証法的な帰結もありうべきだろうと、元々推すつもりで臨んだ「AMBIGRAM」を推した。「AMBIGRAM」もまた、十二に分かれた個々がその個々間では甲乙つけ難いゆえに総体としての「AMBIGRAM」として選出されているのであるから、A群ないしB群候補には内在した“付け入る隙“を持たぬ唯一の候補だと思ったのである。しかし、選考会の大きな潮流を捻じ曲げるまでには至らなかった。選考会は各自が今年度のテーマを持ち寄るので、それらの衝突や溶解が一つの流れを生むのは自然でもある。「AMBIGRAM」が弁証法的帰結を単独で達成できなかったのは、私の推薦の弁の根拠が、A群B群との相対的な評価に拠ったということも関係しているだろう。今回の結果を私はそのように捉えている。
○選考者コメント:静谷静一
私は「光だと気づいた順に触れる指たち」を推そうと考えていた。ダメージヶ原ゆみ/鈴木亜佐美/平山水絵の三候補は、その均衡ゆえにそのどれかひとつを大賞に、という風には考えなかった。だから、その三候補が横並びで大賞になるか、もしくはそのほかの候補が大賞を獲るかという結果になる予感があった。そういう思いもありながらにして個人的な感動を大きな理由によせた上、何かひとつを推すのであれば「光だと気づいた順に触れる指たち」と思ったのである。「光だと気づいた順に触れる指たち」に内包された全方向的な肯定(それは絶望や諦念までも含まれている)を描く覚悟の強靭さに私は心打たれた。そしてこの感動の大きさは大賞に推すに相応しかった。ひとつ申し上げておくのは、結果的に「光だと気づいた順に触れる指たち」が大賞に至らなかったという結果には、2019年に「ミラキュラスウィークエンド」が大賞を獲っていることは関係しない。これは私だけの意見ではない。また同様に、「ダメージヶ原ゆみ」と「光だと気づいた順に触れる指たち」を同一作者というファクターで比較検討をすることもなかった。それでも「ダメージヶ原ゆみ」を含む先に挙げた三候補に議論が集中したのは、今年度の文化大賞が三候補に通底していた魅力を今回のテーマとして内在していたことに思うし、テーマ性が後から浮かび上がることは私が毎年文化大賞に期待する特性なのだ。私が事前に考えていた“横並び“という結果にはならなかったのだが、むしろ私は自分の予想通りにならなかったことを好ましく感じる。三候補への議論と別のところから「AMBIGRAM」が浮かび上がったのも、やはり興味深い。一ヶ月以上の長期にわたり、ほとんど「AMBIGRAM」だけを聴いていた日々を思い出すとき、その行為の徹底に明瞭な意図や理由は見つからないが、それこそが「AMBIGRAM」が大賞である根拠たる。
○選考者コメント:あさくらなおき
候補から最終候補を絞るまでも長かったのにそのうちのキャラクター三候補でどれがいいみたいな時間が長くて結局どれもいいみたいになったので、どれもいいなら全部にするかランダムにくじ引きでもいいんじゃないかと思ったけど、そういうことではないっぽかった。
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